2012年3月22日木曜日

ドリトル先生 - Wikipedia


ドリトル先生(ドリトルせんせい、Doctor Dolittle)は、20世紀前半にアメリカ合衆国(米国)で活動したイギリス出身の小説家[1]、ヒュー・ロフティングによる児童文学作品のシリーズ。また、その主人公である博物学者・医学博士・ジェントリの通称である。フルネームはジョン・ドリトル(John Dolittle)。

ロフティングは第一次世界大戦においてイギリス陸軍・アイリッシュガーズ連隊の志願兵として従軍した際に、動けなくなった軍用馬の射殺処分に遭遇して心を痛め、この体験から動物の言葉を解する獣医師の物語のインスピレーションを得たとされる。ロフティングは従軍先から2人の子供に宛てた手紙で、動物語を話すイギリスの田舎町に住む「ドリトル先生」の短い物語を挿絵付きで書くようになり、これが1920年に刊行された第1作『ドリトル先生アフリカゆき』の原型となった。

シリーズは全12巻で、他に番外編が1巻存在する。各巻は必ずしも時系列通りに並んでいる訳ではなく、いわば「時系列シャッフル」的な手法が採られている。第3巻『郵便局』をどの時期に置くかは諸説あるものの(当該記事の概要を参照)、少なくとも第1巻『アフリカゆき』、第4巻『サーカス』、第6巻『キャラバン』、第11巻『緑のカナリア』は確実に、そして恐らくは第3巻『郵便局』も第2巻『航海記』(冒頭部分は1839年と明示されている)でドリトル先生が助手の「トミー」ことトーマス・スタビンズと出会うよりも以前の出来事である。第7巻『月からの使い』から第10巻『秘密の湖』までは巻数と時系列が一致しており、時系列上は『秘密の湖』が最終巻となる。刊行順の最終巻『楽しい家』はロフティングの生前に未発表 となった短編8話をジョセフィン夫人とその妹のオルガ・フリッカーが整理し[2]、オルガが補作を行った短編集である。

[編集] 評価と反響

第1作『アフリカゆき』が1920年に米国で刊行されて以降、シリーズ作品は老若男女を問わず高い人気を博したが作者のロフティング自身は次第にマンネリ化を感じ、一度は1928年刊の第8作『月へゆく』で主人公のドリトル先生を月世界へ置き去りにしたまま完結を図るつもりであった。しかし、読者から先生の帰還とシリーズ再開を求める声が多く寄せられたことから5年のブランクを経て1933年刊の『月から帰る』で正式にシリーズを再開した[3]

ロフティングの没後、米国では1960年代後半より『アフリカゆき』第12章における黒人描写や『航海記』に登場するクモザル島の住民(「インディアン」とされているが、ラテンアメリカのインディオとの混同が見られる)に関する描写が不正確なもので人種差別や偏見の助長に繋がるとして問題視され(詳細はドリトル先生アフリカゆき#作中の表現について、ドリトル先生航海記#作中の表現についてを参照)、1970年代にはシリーズの大部分が絶版となっていた[4]。1967年にはオルガ・フリッカーの編著で『ドリトル先生物語選集』(Doctor Dolittle, a Treasury)が刊行されているが[5]、本編に比べると知名度は高くない[4]。その後、1986年のロフティング生誕100周年を機に問題とされた箇所の改訂作業が進められ[6]、パトリシア&フレデリック・マッキサックの手で遺族の了承を得て該当箇所を修正した改訂版が1997年より刊行されている。日本では、2001年に黒人差別をなくす会が岩波書店に対して上記の描写に加え『秘密の湖』で固有名詞のニジェール川(Niger river)を「ニガー川」とするなどの誤訳を挙げて回収を求めたが、岩波書店側は該当する誤訳などの「不適切」とされた箇所については修正に応じたものの、回収措置は執らず作品が執筆された時代背景に関する編集部の考え方を別紙で説明し、読者に理解を求めている[7]

米国では上記の理由で長く絶版状態が続いたこと、またロフティングの母国・イギリスではシリーズ全巻ともロフティングが米国へ移住した後に書かれたものであるため「ロフティングは米国の作家」と言うイメージが強い為か本シリーズも「過去の作品」として扱われることが多く、現在では米英よりも日本、そしてポーランドや旧ユーゴスラビアなどかつての東側諸国において人気が高いと言うことである[8]

本作の主人公を由来とする「ドリトル先生」は、主に二通りの意味で人物の愛称や異名に使用される場合がある。一つは動物と自由に会話が出来る、或いは会話までは行かなくとも高度な意思疎通が可能な(少なくとも、周囲からはそう見られている)人物に対して、もう一つは極めて腕の良い獣医師を評して使用される[9]

[編集] 「ドリトル」という表記について

ドリトル(Dolittle)という姓は本来の英語に即した発音であれば「ドゥーリトル」であるが、日本では第1作『アフリカゆき』を最初に紹介した井伏鱒二が『文學界』1940年11月号で同作の冒頭部分を「童話 ドリトル先生物語」として紹介した際に「ドゥーリトル」と言う発音が日本語に馴染まず特に子供には発音しづらいことと、だからと言って"Dolittle"と言う姓をその由来である"do little"、つまり「僅かな働き」からの意訳で「やぶ先生」とする訳にも行かないことから敢えて「ドリトル」という表記を採った経緯について述べている。以後も、ほとんどの日本語訳では井伏訳を踏襲して「ドリトル」としているが、1960年代から1970年代に刊行された英和対訳の学習教材では「ドゥリトル」という表記も見られる[10]。『マイ・フェア・レディ』でオードリー・ヘプバーンが演じたイライザ・ドゥーリトル(Eliza Doolittle)や1942年のドーリットル空襲で知られるジミー・ドーリットル(Jimmy Doolittle)はいずれも"Doolittle"で"o"が一つ多い。

シリーズ作品の時代設定はおおむね1830年代後半から1840年代前半のヴィクトリア朝初期に設定されており、先生はイングランド南西部の港湾都市・ブリストルからやや離れた場所のスロップシャー州(Slopshire)[11]に属する田舎町・沼のほとりのパドルビー(Puddleby-on-the-Marsh)にある屋敷に住んでいるとされる。パドルビーは架空の町であるが、その風景はイングランド東部・ノーフォークの湖沼地方をモデルにしたともされている。

ドリトル家の屋敷には先生の先祖が園遊会やローンボウルズ(玉転がし)をしたという広い庭があり、たくさんの動物たちが住んでいる。先生は博物学者であり、腕の良い医師として妹のサラ(Sarah)と暮らしていたが、屋敷の動物たちが患者に迷惑をかける騒動が相次いで人間の患者は誰も寄り付かなくなってしまった。そんなある日、先生はオウムのポリネシアから「動物語」の存在を知らされ、英語を始め人間が使う複数の言語で話せるポリネシアの手ほどきで動物たちと話すことができるようになる。先生が何か特殊な能力を持っていたり魔術やオーバーテクノロジーに依存した訳ではなく、普通の人間が学習によって動物と話せるようになった点はシリーズの大きな特徴と言える。 先生が動物と話せると言う評判を聞き付けた近所の動物たちが早速、治療のために屋敷に押し掛けて来るようになって暮らし向きは再び良くなるがサーカス団から引き取ったワニを怖がって町の人々がペットや家畜を連れて来なくなったことに怒りを爆発させたサラは兄に愛想を尽かして出て行ってしまう[12]


絵を塗りつぶす方法

先生がこうなってしまったのは自分達のせいであると気づいた動物たちは会議をひらき、能力を出し合って、先生を手伝い始める。ベッドメイクを始めとする家事はアヒルのダブダブ、会計はフクロウのトートーが担当することになった。動物たちの楽しみは、夕食の後に暖炉の前で顔を揃えて身の上話をすることである。そして、先生が所用や航海で長く家を空ける時は動物たちも同行し、その能力を活かして先生を手助けする。

[編集] ドリトル先生の家族と友人

以下の動物たちが持ち前の能力(オウムの物真似は元より犬の嗅覚、フクロウの聴覚や暗視力、どこにでも潜り込めるネズミなど)を生かして先生を助けたり、意外な知識を披露したりするのが各作品の見どころとなっている。

以下に挙げるキャラクターの名称は原則として井伏鱒二訳の岩波版に拠り原文の名称をカッコ内に併記するが、特に必要な場合は河合祥一郎訳の角川つばさ文庫版における名称を本文中に記載する。


クリス·ヴァン·オールズバーグはどのように多くの本を出版した

[編集] 動物たち

ポリネシア(Polynesia, the parrot)
とある船でペットとして飼われていた、180歳を超える[13]アフリカ出身のオウム。あらゆる言語に堪能で、ドリトル先生とスタビンズの語学の師である。怒るとスウェーデン語で悪態を口走る癖がある。
ジップ(Jip, the dog)
ドリトル邸の番犬。動物語を習得したドリトル先生と信頼関係を結んでいるため、鎖に繋がれていない。同胞愛が強く、雑種であることを誇りにしていて、人間の血統種尊重を馬鹿にしている。『動物園』では「雑種犬ホーム」を開設してからはしばしば雑種の野良犬を連れ帰るようになった。
『アフリカゆき』で、海賊に拉致されて岩礁へ置き去りにされた航海士の居所を嗅ぎタバコの残り香のみを手がかりに嗅ぎ当てることに成功し、「世界一の賢い犬」と刻印された金の首輪を贈られた。以後、この首輪を"勲章"として首に嵌めている。また『郵便局』では著名な画家のジョージ・モーランドと再会した際のエピソードを明かしている。
ダブダブ(Dab-Dab, the duck)
ドリトル家の家政婦役で、細かいことに良く気づき、愚痴と世話焼きが大好きなアヒル。動物に甘いドリトル先生に代わって動物たちをたしなめ、家事をこなす。発言もおばさん調。 
チーチー(Chee-Chee, the monkey)
ドリトル先生の患者だったチンパンジー。イタリア人の手回しオルガン奏者に飼われていたが、先生に1シリングで買い取られ家族の一員となる。『アフリカゆき』で一度はアフリカに残る道を選ぶが、後に人間の女の子に変装して船に乗り、先生宅に戻って来た。
トートー(Too-Too, the owl)
計算が得意で複式簿記もこなすフクロウ。金銭管理が苦手なドリトル先生に代わって会計をしている。考え方も非常に保守的で、ポリネシアやダブダブと共にしばしば先生の経済観念の甘さに苦言を呈する。
ガブガブ(Gub-Gub, the pig)
食欲旺盛で、ドリトル家のコメディリリーフ的な役回りのブタ。トリュフを掘り当てるのが得意。短慮な性格のためトラブルが多く、しばしば笑い物になったりダブダブを呆れかえらせたりするが、美食家として『食物百科大事典』全20巻を書き表す食物学の大家でもある。
白ネズミ(White mouse)
アルビノの為、体毛が白いハツカネズミ。『アフリカゆき』の原文ではホワイティ(Whitey)と愛称で呼ばれることもあったが『郵便局』以降はこの愛称は使われなくなり"White mouse"と呼ばれるようになった。ガブガブなどに浴びせる「チー、ヒー」という忍び笑いが特徴[14]。手先が器用で、砂粒の色を見分けられるほどの鋭い観察力を持ち幾度となく先生を手助けするが『秘密の湖』では大失態を犯してしまう。
ロンドン生まれで、雪の季節しか出歩けないなど困窮していた。他のネズミと同じように黒い体毛が欲するが手違いで青い染料壺に飛びこんでしまい、ドリトル先生の治療を受けてからドリトル家のピアノをねぐらにしている。先生の庭の「動物園」の市長と「ネズミ・クラブ」の会長を兼務する。
ジム(Jim)
サーカス団に所属していたワニ。見世物生活を嫌がっており、歯痛でドリトル先生に掛かったのを契機に引き取られる。しかし、ジムを飼うようになってから町の人々が怖がってペットや家畜を連れて来なくなってしまい、サラがドリトル家を出て行く直接の原因となった。『アフリカゆき』以後は故郷のアフリカで暮らし、後に『秘密の湖』で登場する。
足の衰えた老馬(old lame horse)
ドリトル邸で昔から飼われている老馬(『アフリカゆき』の時点で25歳とされる)。サラがディングル家に嫁いだ後は薪集めをして家事を支える。登場期間は長いが一行に同行することはなく、先生が旅から帰るたびに出迎えをする。
トグル(Toggle)
老いた農耕馬。視力が落ちて仕事ができなくなるが、獣医に見当違いの診断ばかりされて閉口していた。
ドリトル先生に眼鏡をもらって視力を取り戻した後『サーカス』で再会し、同境遇の老馬たちと先生が買い取った牧草地で「引退した辻馬車馬、荷馬車馬の会」を結成して悠々自適の生活を送る。
チープサイド(Cheapside)
セント・ポール大聖堂の南側にある聖エドモント像の左耳に営巣しているロンドンの雀。妻にベッキーがいて、子供は数十羽いる。
ロンドンっ子を自負しており、喧嘩っ早く「田舎者」を見下す癖があるのが玉に瑕。
クイップ・ザ・キャリアー(Quip-the-Carrier)
『アフリカゆき』での急報を入れた「飛脚」の異名を持つツバメ。初期のドリトル先生と外部の連絡役を務めた。
スピーディ・ザ・スキマー(Speedy-the-Skimmer)
「韋駄天」の異名を持つツバメの大将。ドリトル一家の"海外駐在員"として情報収集などに活躍する。探索能力に長けており、クイップを含む大勢の部下と共に度々先生一行を救った。優秀なスポッターでもあり『郵便局』では、先生を指導して大砲の弾を奴隷商人の船に命中させた。
ミランダ(Miranda)
ブラジルのアマゾン熱帯雨林で生まれ育った美しい紫ゴクラクチョウ。チープサイドやスキマーと並び、通信に活躍。繊細な淑女だが、その美貌ゆえに苦労が絶えない。
ピピネラ(Pipinella)
美声を持つ緑のカナリア。『キャラバン』では雌が歌うものではないというしきたりに抗い[15]、随所で美しい歌を披露する。『緑のカナリア』では『キャラバン』で簡潔に語られた生い立ちが詳しく語られている。
ドロンコ(Mudface)
『郵便局』と『秘密の湖』に登場。つばさ文庫版では「どろがお」。アフリカの奥地、ジュンガニーカ湖に住む巨大な亀。ノアの方舟に乗った動物のつがいだったが、ノアと対立し独自の道を歩んだ。地震で生き埋めになったところをチープサイドの通報で駆けつけたドリトル先生一行に救出され、数千年前の証言をした。
スイズル(Swizzle)
ブロッサム・サーカスに所属する道化師・ホップの飼い犬。サーカス団の解散後は親友のトビーと共にジップを頼ってドリトル家の一員となり、雑種犬ホームを立ちあげる。

[編集] 架空の動物たち

オシツオサレツ(Pushmi-pullyu)
つばさ文庫版では「ボクコチキミアチ」。胴体の前後にそれぞれ頭がついている、後ろ向きに二本角のついた動物[16]。本人によると一角獣の親戚らしい。『アフリカゆき』で一行に加わる。危機に敏感で、片方の頭が眠っている間も残る片方の頭が起きている。重度の恥ずかしがり屋だが、先生の人柄を慕っており『アフリカゆき』や『サーカス』では「先生の役に立てるなら」と我慢して見世物になっている。
大ガラス海カタツムリ(Great Pink Sea Snail)
『航海記』に登場。ガラスのように透き通ったピンク色の殻を持つ巨大な巻貝。殻の中には人を乗せることもできる。
ジャマロ・バンブルリリイ(Jamaro Bumblelily)
『月へゆく』に登場。月からの使者として訪れた巨大な蛾。宇宙を飛行することができる。
イティー(Itty)
ドリトル先生が月から連れ帰って来た神秘的な猫。ダブダブやポリネシアからは猫と言うだけで蛇蝎の如く嫌われ、ポリネシアが「just call it "It"」(「あれ」と呼びなさいよ)と発言したことを受けてスタビンズが「Itty」と命名した。
当初は一家の動物たちに気味悪がられていたが、スタビンズのとりなしで一家に加わる。皆の白眼視も気に掛けず飄々としており、後に最も敬遠されていた白ネズミやジップとも友達になった。

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トーマス・スタビンズ(Thomas "Tommy" Stubbins)
第2巻『航海記』から、住み込みの助手として登場した、ドリトル先生を慕う少年。みんなからは「トミー」と呼ばれるが、先生だけは「スタビンズ君」と呼んでいる。ポリネシアから動物語を学び、屋敷の中にある「動物園」の副園長を務めたりもしている。先生は靴屋を営む父・ジェイコブとは旧知の仲で、その修理技術を高く評価し、靴直しは必ずジェイコブの店(トミーの実家)に頼んでいた。『航海記』以後の全ての作品は、ポリネシアの口述をもとに、トミーが思い出を書き取った「回顧録」形式で構成されている。
サラ・ドリトル・ディングル(Sarah Dolittle Dingle)
ドリトル先生の妹。作中に登場する唯一の親族である[17]。先生がワニのジムを引き取ったことに愛想を尽かし、教区長を務める富豪のディングル家へ嫁いで行った。『サーカス』や『キャラバン』では先生と間の悪いところでたびたび再会し、その都度呆れている。
マシュー・マグ(Matthew Mug)
ペットの餌用に屑肉を売る「ネコ肉屋」の男。ジプシーの血を引く気のいい男で機転も利くが[18]、手癖が悪く札付きの密猟者で、窃盗で何度も逮捕・投獄されておりドリトル先生のような紳士と親友である事は司法当局からも訝しがられている。夫人のテオドシアは夫と違って学のある人物で、字が読めない夫に先生の著書を読み聞かせたりしている。
ロング・アロー(Long Arrow)
『航海記』に登場する、ペルーを拠点に活動しているインディアンの博物学者。薬草を求めてクモザル島に渡ったが、行方不明となっていた。
ドリトル先生も尊敬する博物学の大家で、先生とはワシ語で意思疎通をする。
カアブウブウ・バンポ(Bumpo Kahbooboo)
西アフリカの黒人国家・ジョリギンキ王国の王位継承者。長身で、類稀な視力と腕力を誇る。白人の童話、特に『眠り姫』を愛読しており「白人のような白い顔」に憧れていた。父王に捕らわれていた先生によって顔を白くしてもらい、脱獄を手助けする。
オックスフォード大学に留学しているが、靴と代数学は苦手の様子である。『航海記』でクモザル島への航海に同行して以降、先生の屋敷に投宿していることも多い。
ココ王(King Koko)
『郵便局』と『秘密の湖』に登場する。アフリカの小さな黒人国家・ファンティポ王国の国王。甘いものに目がない。切手売りにかまけて郵便制度が崩壊したため、ドリトル先生に改革を依頼する。
貝ほりのジョー(Joe, the mussel-man)
『航海記』と『秘密の湖』に登場。沖合の岩にへばりつく貝やロブスターを採って生計を立てている漁師。傘から凧を作るなど、手先が器用な人物でトミー・スタビンズと仲が良く、ドリトル先生と出会うきっかけを作った。先生の一行が航海に出る為の船を少なくとも2回、調達しており『航海記』では3人乗りのダイシャクシギ号(Curlew)[19]を、『秘密の湖』ではダイシャクシギ号よりも小回りの効くスループ船のアホウドリ号(Albatross)を用意している。
ブラウン博士(Dr. Brown)
『サーカス』と『キャラバン』に登場。香料を混ぜたラードを妙薬と偽ってサーカスで売っていた偽医者。
博士号を持つ本物の医師であるドリトル先生に、衆目の下で詐欺を暴露されてサーカスを追い出されるが、後に改心して本当に効く薬を開発する。
オーソ・ブラッジ(Otho Bludge)
『月へ行く』で登場した月の住人。元は平凡な地球人だったが、月の気候の作用で不老不死の巨人となっている。
健康を損ねリューマチになったため、ドリトル先生のもとへジャマロ・バンブルリリイを使いに出す。
パガニーニ(Niccolò Paganini
『キャラバン』に登場した実在の音楽家。先生の上演する動物オペラの聴衆として現われ、「動物語が話せると言うと狂人・山師扱いされる」と臆する先生を、「動物ときちんと意思疎通が出来なければ、こんなに見事な出し物は不可能だ」と絶賛する。

[編集] シリーズ

シリーズは全12冊と番外編1冊。挿絵も作者であるロフティングの自筆画が使われている(日本では岩波書店版のみ)。また、日本語版の表題は原則として岩波書店版に拠る。刊行年は米国(1 - 9巻と番外編はF・A・ストークス社、10 - 12巻はJ・B・リッピンコット社)とイギリス(全巻ともジョナサン・ケープ社)の原書、日本語訳(主に岩波書店)の初刊についてそれぞれ記述する。


第1巻『ドリトル先生アフリカゆき』
The Story of Doctor Dolittle
発行年: / イギリスの旗 1922年 / 1941年(白林少年館)
第2巻『ドリトル先生航海記』
The Voyages of Doctor Dolittle
発行年: 1922年 / イギリスの旗 1923年 / 1952年(講談社・世界名作全集)
第2回ニューベリー賞受賞。
第3巻『ドリトル先生の郵便局』
発行年: 1923年 / イギリスの旗 1924年 / 1952年(岩波少年文庫)
第4巻『ドリトル先生のサーカス』
Doctor Dolittle's Circus
発行年: 1924年 / イギリスの旗 1925年 / 1952年(岩波少年文庫)
第5巻『ドリトル先生の動物園』
Doctor Dolittle's Zoo
発行年: 1925年 / イギリスの旗 1926年 / 1961年(岩波書店・全集)
第6巻『ドリトル先生のキャラバン』
Doctor Dolittle's Caravan
発行年: 1926年 / イギリスの旗 1927年 / 1953年(岩波少年文庫)
第7巻『ドリトル先生と月からの使い』
Doctor Dolittle's Garden
発行年: 1927年 / イギリスの旗 1928年 / 1962年(岩波書店・全集)
第8巻『ドリトル先生月へゆく』
Doctor Dolittle in the Moon
発行年: 1928年 / イギリスの旗 1929年 / 1955年(岩波少年文庫)
第9巻『ドリトル先生月から帰る』
Doctor Dolittle's Return
発行年: 1933年 / イギリスの旗 1933年 / 1962年(岩波書店・全集)
第10巻『ドリトル先生と秘密の湖』
Doctor Dolittle and the Secret Lake
発行年: 1948年 / イギリスの旗 1949年 / 1961年(岩波書店・全集)
第11巻『ドリトル先生と緑のカナリア』
Doctor Dolittle and the Secret Lake
発行年: 1950年 / イギリスの旗 1951年 / 1961年(岩波書店・全集)
遺稿を夫人とその妹が整理して刊行された。
第12巻『ドリトル先生の楽しい家』
Doctor Dolittle's Puddleby Adventures
発行年: 1952年 / イギリスの旗 1953年 / 1962年(岩波書店・全集)
短編集。前巻と同様、遺稿を夫人とその妹が整理して刊行された。
番外編『ガブガブの本』
Gub-Gub's Book, An Encyclopaedia of Food
発行年: 1932年 / イギリスの旗 1932年 / 2002年(国書刊行会)

上記の他、誕生日に合わせて1日ごとにイラストと『月から帰る』までの本編中の台詞を添えた"Doctor Dolittle's Birthday book"(ドリトル先生のバースデー・ブック)と言う本が1935年に刊行されているが、日本語訳は未刊行となっている。

原書は米国のリッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(英語版)、イギリスのジョナサン・ケープとも絶版となっているがイギリスでは米国で絶版になっていた期間もPuffin Booksから刊行され、米国では1997年以降に問題とされた箇所を修正した改訂版がランダムハウス系列のRed FoxやYearling Booksから刊行されている。

[編集] 日本語訳について

第二次世界大戦中に児童文学作家の石井桃子が近所に住んでいた井伏鱒二に本作を薦め、井伏が石井の下訳を基に第1巻『アフリカゆき』を翻訳したものが本作の日本における最初の紹介である。この翻訳は『ドリトル先生「アフリカ行き」』の表題で石井が設立した白林少年館から1941年に出版されたが、程なくして白林少年館は倒産してしまう。その後、講談社の雑誌『少年倶楽部』において第2巻『航海記』を『ドリトル先生船の旅』の表題で連載していた井伏は陸軍に徴用され、本書の翻訳は一時中断したが、終戦後に帰国した井伏は岩波書店から再度『アフリカゆき』の訳文を推敲させられ、岩波少年文庫のラインナップに加えられた。以降も井伏の手で翻訳が続けられ、1962年に全12巻の翻訳が完成した。井伏訳は児童文学作品で� ��ることを考慮し、全編にわたって読みやすい口語の文体にを採用しており名訳として評価が高い[20]。想像上の動物である"Pushmi-pullyu"("Push me, pull you"のもじり)を「オシツオサレツ」と訳すあたりは妙訳と言えるが、翻訳作業が行われた時期が古いこともありトリュフを「松露」と訳すなど現代においては馴染まない訳語を使っていることも多い。この井伏訳は岩波少年文庫と愛蔵版ハードカバー『ドリトル先生物語全集』として現在も版を重ねており、イギリスのジョナサン・ケープ版を基に江森瑛子が手掛けた『全集』の装丁は1979年に改版された岩波少年文庫でも使用されている。


2000年代までは井伏訳が唯一の全巻(番外編を除く)訳であったが、2008年に原作者・ロフティングの日本における著作権の保護期間が戦時加算分を含めて満了したことを受けて2011年5月より河合祥一郎の新訳版が角川つばさ文庫から順次、刊行されている[21]。河合訳では井伏訳の「オランダボウフウ」を原文通り「パースニップ」としたのを始め井伏訳では前述した「松露」のようにもっぱら意訳されていた日本に馴染みの薄いイギリス風の料理や菓子、食材の名称を出来るだけ原文から忠実に訳し、あとがきで料理に関する解説を加えている点とポンドやシリング、ペニーなどの通貨単位を現代基準の日本円(概ね1ペニー=100円)に換算している点が特徴である。なお、前述の"Pushmi-pullyu"は井伏訳「オシツオサレツ」を踏襲せず「ボクコチキミアチ」と訳している。この新訳では岩波版と異なりロフティング自筆の挿画でなく、日本のイラストレーター・pattyが新規に描いたイラストを使用している。

河合訳以外で2008年以降に公表された新訳は大半が第1巻『アフリカゆき』と第2巻『航海記』のもので、小林みき訳(ポプラポケット文庫)や[22]、麻野一哉訳などが存在する[23]

なお、番外編『ガブガブの本』は光吉夏弥が一部エピソードのみを抄訳した『たべものどろぼうと名たんてい』が1957年に光文社より刊行されたものの岩波版には採録されず『アフリカゆき』巻末の石井桃子による解説でも言及されていなかったが、2002年に南條竹則が全編を訳して国書刊行会より出版された。

[編集] 映像化作品

「ドリトル先生」は、実写映画やアニメシリーズとして多数映像化されている。米国で製作された映像作品では、先生はどれも肥満体の設定が改められて痩身のキャラクターとなっている。

[編集] 映画作品

レックス・ハリソン主演のミュージカル映画。原案は第2巻の「ドリトル先生航海記」に「アフリカ行き」や「月へ行く」の要素を加えたもので、オシツオサレツや海カタツムリ、巨蛾が登場し、クモザル島の住民はインディアンではなく、黒人である。
航海の同行者に、トミー以外にネコ肉屋のマシュー・マグ(妙な若い優男になっている)を加えており、二枚貝がパクパク殻を開いて先生と会話するような、子供向けのコメディータッチの作品になっている。 この作品では先生は女嫌いの菜食主義者になっており、また体型も肥満体でない。

[編集] アニメ作品

原題"Dr. Dolittle und seine Tiere"。ドイツで制作された白黒の無声短編アニメ映画。『アフリカゆき』の前半から抜粋した3編のエピソードで構成。
アメリカのテレビアニメシリーズ。DFE社による制作。原作とは違い、先生の体格はすらっとした痩身で、ミュージカル歌手のボブ・ホルトが声を担当した。舞台は現代で、動物の言葉を話す秘密を奪おうと、世界征服をたくらむ海賊スカービーとその一味がドリトル先生一行を追いかけ、毎回大失態を演じるというコミカルタッチの内容で、原作とは全く異なる作品である。旅仲間として、鞄の中に入ったキリギリスのロックバンドがおり、毎回歌にあわせてキャラクターたちが歌い踊るシーンが挿入される。トミー少年は眼鏡をかけている。
日本では『ドリトル先生航海記』と題して、1972年頃にNHKで放映され、ドリトル先生の声はオペラ歌手の立川清登が担当した。キリギリスのバンドはヤング101が歌を担当、毎回1曲披露した。
  • 『The Voyages of Dr. Dolittle』(1984年)
アメリカのテレビアニメ。日本未公開。先生の声はJohn Stephensonが担当。
日本のOVA。『航海記』をベースにしつつ後半は『アフリカゆき』から採ったエピソードを交えている。先生の声は中村正が担当。1997年12月から1998年4月までNHK衛星第2テレビの「衛星アニメ劇場」でも放送された。
  • 『The Voyages of Young Doctor Dolittle』(2011年)
青年ドリトル先生が活躍するアメリカのCGアニメ。先生は丸眼鏡をかけている。ティム・カリーが声を担当。

[編集] CMキャラクター

  • 『トヨタ自動車』(1990年 - 1991年)
トヨタ自動車がドリトル先生を自社のコマーシャル・キャラクターとして使用、テレビCMや新聞媒体などに登場した。ロフティング画のドリトル先生が自動車を運転しながらエコロジーを口にするというものだった。

[編集] その他

『不思議な旅』と同じ20世紀フォックス製作でエディ・マーフィが「黒人のドリトル先生」を演じる『ドクター・ドリトル』と『ドクター・ドリトル2』、その続編として製作されたオリジナルビデオでカイラ・プラット(英語版)が父・ジョンの能力を受け継いだ娘のマヤ・ドリトルを演じる『ドクター・ドリトル3』『ドクター・ドリトル4』『ドクター・ドリトル ザ・ファイナル』がある。いずれもロフティングが「原作者」としてクレジットされているが、舞台は現代のアメリカであり「ドリトル」という名前で「動物と話せる医者」という設定上の共通項を除いては原作と全くの別物である。


[編集] 出典、脚注

[編集] 参考文献

文春新書『英国』の増補改訂版。

[編集] 脚注

  1. ^ 1920年刊のシリーズ第1作『アフリカゆき』以降、全て米国で初刊のためアメリカ文学に分類される場合もあるが、ロフティングは米国へ移住した後も生涯にわたりイギリス国籍を保持し続けていた。
  2. ^ 『緑のカナリア』と『楽しい家』でオルガ・フリッカーは"Olga Michael"(オルガ・マイクル)のペンネームを用いている。
  3. ^ 『岩波-ケンブリッジ 世界人名事典』(岩波書店, 1997年), p1267(「ロフティング」の項)。この間、番外編の『ガブガブの本』が1932年に刊行されている。
  4. ^ a b 米国における絶版の経緯については岩波書店版(1978年の改版以降)における石井桃子の解説に詳しい。
  5. ^ 初版 ISBN 0-397-30937-6 。1990年代にも何度かペーパーバック版が刊行されている。
  6. ^ 小林みき「ドリトル先生」(ポプラポケット文庫、2009年)訳者あとがき。
  7. ^ 朝日新聞、2002年2月4日付。
  8. ^ 南條「井伏鱒二との幸福な出会い」(『考える人』2010年冬号, p66-71)
  9. ^ 例えば、テレビドラマ化もされた日本の漫画『獣医ドリトル』(原作・夏緑、作画・ちくやまきよし)の主人公・鳥取(とっとり)健一は姓の「鳥取」が「ドリトル」とも訓読み可能なことと、獣医師として高い腕前を有することの二通りの意味から作中で「ドリトル」と呼ばれている。
  10. ^ 龍口直太郎編訳のニュー・メソッド英文対訳シリーズ『ドゥリトル先生物語』(評論社・1961年刊、原作は『アフリカゆき』)や、C・W・ニコルが脚色した『航海記』を原作とする絵本『ドゥリトル先生海をゆく』(ラボ教育センター・1977年刊)など。
  11. ^ 『郵便局』第2部1章。この州(シャイア)は架空の地名だが、やや綴りの異なるシュロップシャー(Shropshire)という州はイングランド中西部に実在する。
  12. ^ 後にディングル家へ嫁ぎ、第4巻「サーカス」で再登場する。
  13. ^ 『アフリカゆき』では「182ないし183歳」と自称している。
  14. ^ 原文「Tee,hee(英語圏における笑い声の擬声語)」の音訳。
  15. ^ 本作の執筆当時は一般的にカナリアは雄のみが鳴くと考えられていたが、後年の研究で品種や個体によって雌が鳴くこともあることが確認されている。
  16. ^ あるいはレイヨウ、また英語版wikipediaによればラマ
  17. ^ 『動物園』では先生が大学を卒業した際に、先生の母親が記念にカメオの肖像を作らせたことが僅かに述べられている。
  18. ^ 『ドリトル先生のサーカス』でその司会能力を天才と評されている
  19. ^ 井伏訳では「シギ丸」。
  20. ^ 東京書籍『児童文学事典』(1988年), p829-830の項目「ロフティング」や小学館『日本大百科全書』(1994年版)第12巻, p271の項目「ドリトル先生」(執筆者は児童文学作家・八木田宜子)など。
  21. ^ 編集・発行はアスキー・メディアワークス。
  22. ^ ポプラポケット文庫 世界の名作(427-1) ドリトル先生(ポプラ社)
  23. ^ 新訳ドリトル先生、電子書籍版無料公開中!」(NEWS本の雑誌)

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